開運招福の熊手揃へ
年の初めらしく、江戸っ子が開運招福を托したお宝尽くしの縁起熊手を、江戸時代の浮世絵の中からずずずいーっと、ご紹介したいと思います。
頭や襟にさして強運を呼び込む
江戸の随筆家大浄敬順は文政12年(1829)に上梓した「十方庵遊略雑記」のなかで鷲大明神の祭り風景を詳しく書いていますがその一節に、土産物の笄簪熊手を襟首に差せば運強く、いっさいの魔事を払いよろず勝利を得る事が出来るというので皆こぞって求めている。トあります。
い小さな笄簪熊手を二本差しにした武士。
武士が熊手を身に付けたり、持ったりする図は他にはほとんど見られない。【出典 江戸名所図会】
ろやはり笄簪熊手を差した町人。大熊手を肩にかつぎ、ねじり鉢巻きに笄簪熊手を差す姿も。
【出典 東都歳事記】
無印招福
は左の二点の絵を見ると酉の町のお土産としてお目出度いものが何も付かない、実用品のような縁起熊手があったことがわかります。
【出典 萍花謾筆】
に無印招福の熊手、手前にあるのは、食べると人の頭になれるといわれた「頭の芋」
【葛飾北斎 肉筆画】「太田記念美術館蔵」
福徳円満おかめさん
ほ福徳を象徴するおかめさんの面が熊手に付きました。今でも縁起熊手の最も代表的な指し物です。
【とりのまち 英泉】「国立国会図書館蔵」
開運パワー倍増 両脇に四手が付く
へ四手とは(垂で)とも書き神前の供え物や注連縄などについている下がりものです。それが升や福袋などと共に熊手に付くようになります。
【出典 絵本江戸土産】
千客万来の簪熊手
と吉原や料理屋の女将などの女性達に千客万来の縁起物として、愛らしい簪熊手が大人気となりました。
【名所江戸百景 広重】
ちおかめの面と四手は縁起熊手の必須アイテムとなります。
【酉のまち 豊国】
「国立国会図書館蔵」
り小さなおかめさんが付いた簪熊手を差す美人
【とりのまち 英泉】
「国立国会図書館蔵」
升々繁盛注連縄と四手
ぬ太い注連縄が付いて、熊手はより一層大きく華やかになってゆきます。
【酉の丁名物熊手 広重・豊国】「国立国会図書館蔵」
江戸の百科事典「守貞漫稿」
る著者喜多川守貞はこの中で、酉の市の熊手とは、青竹製のさらいに宝船、米俵、金箱的矢、於福面、戎大黒鶴亀の類いが付いている。遊女屋、茶屋料理屋、船宿芝居関係者などが求める。ト述べています。
【出典 近世風俗志】
一日千両の大当たり
を芝居興業の大入りを托し、的矢と千両箱が付いた、いかにも役者好みの大熊手。
【大入ヲ鳥の町 豊国】「国立国会図書館蔵」
福徳もどっと来るお宝満載の宝船
わお宝単品はまどろっこしいとばかり、一挙に宝船を載せました。遠方に浅草寺が、垣間見えます。
【一景】
商売繁盛極めたり商いの要、大福帳も
か宝船と大福帳。この組み合わせも一つの定番となりました。
【出典 絵本風俗往来】
意気揚々と熊手買い
よ明治時代のグラフ雑誌「風俗画報」に見る酉の市詣で。若い衆が担ぐ熊手の大きさを見ると、手締めの掛け声もひときわ華やかだったことでしょう。
【出典 風俗画報第11号】
こうして見てくると今では指し物の定番となっている、松竹梅や海老、鯛が後世になって登場したことがうかがえます。時代とともに、変化する縁起熊手のかたちは庶民の心意気を映す鏡とも言えましょう。この先、令和庶民の「思い」と熊手商のビジネス魂がどんな熊手を誕生させるか楽しみです。
身体健全!家内安全!商売繁盛!開運招福!